2013年01月25日
父のロレックス
《父のロレックス》
父がガンで入院したのは、今から12年前の春のことだった。
おしゃれだった父は、闘病生活中も、起きると必ず髪を整え、ガウンをはおり、そして腕には愛用の時計をはめるのだった。
それはシンプルな銀のロレックスで、私が生まれた年に買ったものだという。
父はそれを1日に何度も眺めた。
もはや眺めたところで、時間を気にしなければならない用事などあるはずもなく、それはただ単に癖にすぎなかったのだが・・・
1年がたち、病状は悪化していった。
ある日、父は見舞いに訪れた私に、手首からその時計をはずして渡した。
「パパにはゆるくなってしまったんだよ」
「またはめられるようになるまで、君が預かってくれ」
そんな日がこないことは私も分かっていたが、
「早く戻らないと、私がこのままもらっちゃうからね」とおどけた。
そしてそのまま、時計は持ち主の手首に帰ることなく、父は逝った。
結局私は、その時計をもらった。
男として小柄だった父といえ、さすがに手首は私よりはるかに太く、重い時計は私の手首のあたりをいったりきたりした。
けれどどうしてもコマをつめる気にはなれなかった。
時計はゆるいまま、私の手首にあった。
当時22歳だった私にとってそれは、まるで父が私の手首を励ますように、守るように、包んでいるような気がしていたのだ。
直す気になったのは最近のことで、30歳も近くなった20代後半のことだ。
仕事にも、自分にも、ようやくかすかな自信がではじめていたのだと思う。
それはまるで御守りのように私の手首で不安定に動いた時計は、私のサイズに直され、手首にピッタリと止まった。
大丈夫よ、パパ、と私の心の中で言う。
あなたを失ったときの私はあまりにも幼くて、守られていた感覚が強すぎて、どうやって生きていっていいかすらわからなかった。
けれどこの時計が私を守り、そして私の成長を見守った。
ピタリと私の手首に止まった時計は、おそらく私の生まれた日と変わらないまま、ただ静かにその銀の針を回し続ける。
HSコーポレーション星野 修の想い・志
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父の大切なものを受継ぐ
贈る方にも
贈られる方にも
もの以上に沢山の想いを感じるのでしょうね
Posted by 毎日コツコツ(霜鳥) at 08:13│Comments(0)
│感動話